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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)567号 判決

被告人

外村貞爾

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

前略

一、被告人弁護人の論旨第一点について、

本件が刑事訴訟法第二百八十九條により弁護人がなければ審理できない被告事件であることは所論の通りである、よつて本件が刑事訴訟法施行法第五條の適用を受けないとする論旨について判断するのに同條に「前條の事件」とは新法施行の際まだ公訴が提起されていない事件を指すことは所論の通りであるが、必要的弁護が問題となるのは、公訴提起後、公判開廷に関してであるから、結局本條は新法施行後公訴を提起された凡ての事件を対象とするものと解すべきである。されば原裁判所が、被告人において弁護人選任を辞退した以上、本條の適用あるものとして弁護人不存在のまま審理をしたことは正当であつて、訴訟手続上の違法はないといわねばならない、よつて論旨は理由がない。

中略

同第二点の二について

記録を閲するのに、被告人が前示沒收にかかる物件(白米押麦は現物として)に対する所有権の抛棄をしていることは明らかである、しなしながらこの一事を以て直に右物件の所有権が國庫に帰属したものと即断するのは早計であるというべく被告人の右権利に法によつて一應無主物となる筋合と解するのが妥当と考えられるから、刑法第十九條第二項の、犯人以外の者に属しないときに該当する場合として沒收の言渡があつたものと見るべきである、よつて原判決には所論の違法はないのであるから、論旨は理由がない。

同第二点の三について

所論は原判決判示の所爲は刑法第三十七條所定の緊急避難行爲であると断じその事由を縷述している。しかしながら食糧管理法が國民全般の福祉のため、できる限り、その生活條件を安定せしめるための法律であり、その趣旨は憲法第十三條同第二五條の精神に違反しないことに鑑みるときは、所論の事由は裁判所において適当に裁量判定せらるべき犯情の問題であつて、法律上犯罪の成立を妨げる理由であると解することは正当でない、よつて原判決には所論の違法はないのであつて論旨は理由がない。

以下省略

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